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安田倉庫 Research Memo(3):物流事業は成長事業、不動産事業は安定収益事業(1)

注目トピックス 日本株
■事業概要

1. 事業内容
安田倉庫<9324>は物流事業と不動産事業を展開している。主力の物流事業では、倉庫業や運送取扱業、港湾運送業、通関業などを行っている。首都圏と関西圏の好立地に物流拠点を配し、保管、流通加工、輸配送といった一連の高品質な物流サービスを展開しているが、単純な物流サービスにとどまらず、精密機器や医療機器向けにカスタマイズした物流サービスなど、顧客の課題を解決するソリューションサービスまで行っている。また、アジアへ向けた国際輸送では、陸・海・空の輸送手段を一元的にコーディネートする複合一貫輸送のサービスなども手掛けている。創業以来手掛けている不動産事業では、東京と横浜の好立地にオフィスビルやマンションを展開するほか、都市環境との調和に配慮した再開発事業も行っている。物流事業と不動産事業の2021年3月期の事業別営業収益構成比は物流事業86.4%、不動産事業13.6%、営業利益構成比は物流事業60.7%、不動産事業39.3%であった。物流事業は成長事業、不動産事業を安定収益事業という位置付けになっている。

2. 物流事業
近年の物流事業は、保管して出荷するという単純な物流サービスだけでなく、顧客や商品に合わせて付加価値を加えたソリューションサービスが求められている。同社の物流事業をサービス別に区分すると、一般的な国内物流サービス、メディカル物流サービス、ITキッティングサービス、オフィスサポートサービス、海外・国際物流サービス、の5つに分けることができる。そのなかでもメディカルやITなど専門的な作業が伴うサービスは、相対的に付加価値が高い。一方、輸配送ネットワークは物流事業者にとってなくてはならないものだが、なかでも陸上運送は人手不足のうえ競争が厳しく、相対的に利益率が低くなっている。同社はソリューションサービスを強化する一方、輸配送でアライアンスを拡げることで、物流事業の収益を向上させる方針である。

(1) 国内物流サービス
同社は首都圏や関西圏を中心とした利便性の高い好立地の物流施設を保有し、顧客の多様な保管・配送ニーズに対し、保管や倉庫作業、陸運、国際貨物取扱、物流賃貸など、同社の有する機能を組み合わせた総合物流サービスを提供している。特に首都圏では、横浜港や東京港、羽田空港に至近の京浜地域に倉庫を集中させることで、競合に対して強いアドバンテージのある倉庫ネットワークとなっており、効率的で高品質な物流サービスを実現している。また、豊富な実績やノウハウ、独自の倉庫管理システム、さらには顧客の利便性や効率化を考えてカスタマイズしたサービスを積極的に導入することで、顧客のサプライチェーンを支えている。

倉庫・物流センター運営に関しては、引き受けた後も継続的に業務改善や効率化・最適化を進めている。保管設備においては、顧客の商品特性に合わせた最適な保管環境や効率的なレイアウトを提案、各種温度帯倉庫や空調設備、燻蒸庫、危険品倉庫など様々な要望にも対応することができる。流通加工の経験も豊富で、入庫前の受入検品から倉庫内におけるラベル貼り・値札付け、梱包・包装、セット組み、通電検査など、顧客の要望に応じて専門スタッフがきめ細かく柔軟に対応している。

なかでもWMS(倉庫管理システム)は、「YOURS II(Yasuda Original Useful & Reliable System II)」と呼ばれる独自の総合物流管理システムを導入している。これにより、各物流センターをオンラインで結び、物流のオペレーションを効率的かつ正確にコントロールすることができる。また、物流の基本となる入出庫や在庫ロケーション情報、ロットやシリアルナンバーのコントロールができるほか、EDIやインターネット、ファイル転送によって顧客のシステムと容易にリンクすることが可能で、物流情報の共有化も実現している。危機管理面では、地震などの災害に備え、「YOURS II」を支えるホストコンピュータとネットワークの二重化体制を構築しており、1台がシステムダウンした場合でも、即座に2台目に処理が移され、1時間以内に復旧することが可能となっている。委託先のデータセンターも耐震設備や監視機能が徹底されており、常に安全かつ正確な管理がなされている。このように、同社の倉庫及び物流センターは顧客が安心してアウトソーシングできる体制をとっているため、年々取扱量を増やしている。

輸配送に関しては、小型・中型車による首都圏と関西圏での区域配送、大型車による関東・関西・九州間の幹線長距離輸送など、高品質な自社一貫輸配送の体制を構築しているほか、大西運輸・オオニシ機工の子会社化により北陸圏での輸配送も強化されている。また、商品の特性や配送量、納品リードタイムといった条件に基づいて最適な輸送方法を選択でき、自社拠点・自社車両に加え、アライアンス先の輸送機能を使うことで全国へ効率的に配送することができる。例えば、精密機器の輸送には、特殊車両(エアーサスペンション・パワーゲート・空調付き)を使用することで、納品先での設置作業も可能となる。さらには、メディカル(医薬品・ヘルスケア・試薬など)では保冷車、家電にはドライ車を利用するといった、自社輸配送ネットワークによる共同配送サービスも行っている。ほかにも、顧客の販売情報に基づいた各拠点在庫の適時配分や全国配送といった複数拠点管理、商品特性や環境対応を考慮して設計・開発された包装資材による包装設計など、顧客のサプライチェーン全般をサポートしている。なお、グループ会社の日本ビジネス ロジスティクス(株)では米国ISTA(国際安全輸送協会)認定の包装設計試験ラボを保有するほか、JISやISO、ASTMなど公的試験規格を評価試験する設備も有している。

(2) メディカル物流サービス
同社は、医療用医薬品から一般用医薬品、試薬、医療機器までを扱っており、専用設備の導入や認証・許可の取得、専用輸配送網の整備など、専門性の高いサービスを提供している。メディカル物流サービスでは、特に高度な保管・管理体制が要求されることから、温度管理や冷蔵庫設備など商品特性に応じて保管環境を整備する一方、自家発電設備や衛星電話を備えることで非常時の運用も可能となっている。また同社は、医療用医薬品や一般用医薬品の製造・販売を行う顧客のために、GMP※1で要求されるGDP※2に対応した設備・保管管理、センター運営、配送インフラなどの物流体制を構築している。地震や停電などの不測の事態に備え、BCP※3を意識した倉庫構造となっている。このように、メディカル物流サービスに最適な倉庫設備や保管環境を関東及び関西に有し、GDPへの適合やアウトソーシングを検討している顧客に対応していることから、メーカーの海外展開の拠点となっている倉庫もある。

※1 GMP(Good Manufacturing Practices):医薬品製造における製造管理と品質管理の基準。
※2 GDP(Good Distribution Practices):GMPを補完する、保管や輸送までを含む流通過程での品質管理基準。
※3 BCP(Business Continuity Plan):地震、津波、大雨、大雪といった自然災害や、事故、停電など予測不可能な緊急事態の際に取る施策で、重要業務の被害を最小限に抑え、企業運営を滞らせないための行動指針。


一方、センター運営面では、薬剤師など経験豊かな専門スタッフによる高品質な作業体制を整えており、記録管理が重要となるGDP対応のため、管理薬剤師による各種手順書の整備も行っている。添付文書封入や薬事ラベルの貼付など流通加工や入荷検査、預託品の返却受入センターの運営といった高付加価値サービスについても多くの実績がある。配送に関しては、共同配送によって東西の物流センターから全国の卸・医療施設へ毎日商品を届けている。なかでも首都圏及び関西圏では自社車両による配送を行っており、配送ルートの固定化による安定・迅速・高品質で繁閑を問わない納品が可能となっている。また、生産工場から物流センターを経由して全国の卸・医療施設へ、温度記録管理が可能な医薬品専用車両による一貫輸配送サービスも提供している。さらに、メディカル関連貨物の製品情報・包装の変更案内や患者向け冊子のオンデマンド印刷サービスなどにも対応することで、販促資材の製作管理や進捗管理も行っている。このように、同社のメディカル物流サービスは利便性のみならず信頼性が高いことから、近年大きく伸びている。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)




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