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ナノ粒子をより安全に設計するための新手法

ナノ粒子の安全性向上への貢献に期待

【研究成果のポイント】
・ナノ粒子をより安全に設計するための 人工知能を用いた新手法を確立した 。
・ナノ粒子は、化粧品、塗料、繊維、電子機器 など身の回りで広く利用されているが、ナノ粒子の設計条件による安全性の違いはこれまであまり考慮されてこなかった。
・より安全なナノ粒子の設計が可能となることから、ナノ粒子の安全性向上が期待される。




[画像1: https://prtimes.jp/i/118477/3/resize/d118477-3-87488d79f626ecbd2af0-1.png ]

概要
大阪大学蛋白質研究所計算生物学研究室 水口賢司教授(兼 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 AI 健康・医薬研究センターセンター長) 、橋本浩介准教授、渡邉怜子助教(兼 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター 客員研究員)、同大学大学院薬学研究科毒性学分野 堤康央教授、東阪和馬准教授、芳賀優弥助教らの研究グループは、同大学薬学研究科の大学院生である Martin さん(博士後期課程、国
立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 AI 健康・医薬研究センター 連携大学院生)を中心に、ナノ粒子 の一種 であるナノシリカをより安全に設計するための 人工知能を用いた新しい手法を確立しました。
本研究で確立した手法は、様々な産業分野におけるより安全なナノ粒子材料の開発 に貢献することが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「 ACS Nano 」に 、2023年5 月31日(水曜日)14 時(日本時間)に公開されました 。

[画像2: https://prtimes.jp/i/118477/3/resize/d118477-3-81ac08cc2b07d25a3437-2.png ]

人工知能を用いた安全性向上のための手法概要(図)

研究の背景
ナノ粒子は人工的に作られた直径100ナノメートル以下の粒子で、化粧品、塗料、繊維、電子機器などの民生品に幅広く利用されています。これまで、ナノ粒子が人の健康に影響を及ぼすとした報告はありませんが、従来の材料とは異なる独特の形状や性質ゆえに安全性を懸念する指摘もあります。そのため、人体に直接接する化粧品に対しては欧州委員会(EC)の消費者安全科学委員会(Scientific Committee on Consumer Safety、SCCS)やアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)ではガイドラインを制定し、その安全性を評価しています。しかし、生物学的に、ナノ粒子が細胞等に与える潜在的な影響を予測することが難しいのが現状でした。

研究の内容
(具体的内容)
研究グループは、ナノ粒子の一種であるナノシリカをより安全に設計するための人工知能を用いた新しい手法を確立しました。具体的には、100以上の科学論文から慎重に情報を収集し、先進的な人工知能アルゴリズム(CatBoost)を活用することで、文献データマイニングと機械学習を組み合わせて、ナノシリカの安全性を評価するための汎用的なインシリコ予測モデルを確立しました。
(本研究で明らかになったこと)
今回の研究により、濃度、血清の有無、大きさ、暴露時間、表面特性、など、ナノシリカの安全性に影響を与えるいくつかの重要な要因が明らかになりました。その結果、ナノシリカの表面を加工し、低濃度で使用することで、安全性が大幅に向上することがわかりました。
特に重要なのは、ナノシリカの安全性を評価する際に、ナノシリカ-コロナ複合体が果たす役割を明らかにしたことです。ナノシリカは、血液中などでタンパク質と接触すると、その表面にコロナ(注:COVID-19のコロナとは全くの別物です。)と呼ばれるタンパク質の層を形成します。今回の研究でナノシリカ-コロナ複合体の挙動を理解することは、ナノシリカの安全性の正確な予測に不可欠であることが初めて明らかになりました。
また、安全性予測モデル構築における外部検証の重要性も示されました。研究で一般的に行われている内部検証では、必ずしも信頼性の高い予測値が得られるとは限りませんが、外部検証では、独立したデータセットを使って予測結果を検証します。この厳格なアプローチにより、モデルの正確性と汎用性が保証され、研究結果がより確実なものとなっています。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
本研究で実施した文献データマイニングと機械学習の組み合わせによる安全性予測を、化粧品、塗料、繊維、電子機器などに加え、医薬品に利用されるリポソーム等の他のナノ粒子に応用し、適切な属性(設計条件)を抽出することで、より安全なナノ粒子材料の開発が可能となると考えられ、ナノ粒子の安全性向上に貢献することが期待されます。

特記事項
本研究成果は、2023年5月31日(水曜日)14時(日本時間)に米国科学誌「ACS Nano」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Evidence-Based Prediction of Cellular Toxicity for Amorphous Silica Nanoparticles”
著者名:Martin, Reiko Watanabe, Kosuke Hashimoto, Kazuma Higashisaka, Yuya Haga, Yasuo Tsutsumi, and Kenji Mizuguchi
DOI:https://doi.org/10.1021/acsnano.2c11968

用語説明
※1 ナノ粒子
直径100ナノメートル(nm)以下の粒子のこと。
1ナノメートルは、1メートルの10億分の1。
※2 ナノシリカ
シリカ(二酸化ケイ素)のナノ粒子。
※3 データマイニング
大量のデータから明示されていない有用な情報を見付け出すための技術・手法のこと。
※4 インシリコ
文字通りには「シリコン内で」という意味だが、実際にはシリコンチップ(半導体)つまり「コンピュータを用いて」という意味。

【水口賢司教授のコメント】
苦労した点:ナノシリカの細胞毒性に関するデータベースは存在しないことから、データ収集には苦労しました。これらのデータは文献においてサプリメントデータとしてデジタル化されておらず、文献を読み込んで該当する図表から手作業で読み取るなど、専門的知識を持つ研究者が根気強くデータを収集していくことに多くの時間を費やしました。様々な研究分野でデータ共有の取り組みが進んでいることから、ナノ粒子の安全性研究においてもデータを公開する試みが加速することを願っています。
社会に伝えたいこと:本研究成果は、ナノシリカのみならず様々なナノ粒子について、より安全で高い機能を持つ物質の設計を加速する非常に有用なツールです。

参考URL(※必須 ResOUに掲載)
水口賢司教授 研究者総覧
http://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/8e425f7a7075cbca.html
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