省スペースで100W/cm2以上の冷却能力をもつマイクロクーリングシステムを実現【産技助成Vol.35】
[08/09/16]
提供元:PRTIMES
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独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
山形大学学術情報基盤センター
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、山形大学 学術情報基盤センターの准教授、鹿野一郎氏は、省スペースで発熱量100W/cm2以上の熱除去に対応できる沸騰型マイクロチャネルの開発を開始しました。この技術は、熱除去能力の最も高い沸騰現象を応用してマイクロチャネル内で冷媒としてフッ素系液体を循環させる技術で、省スペースで高い冷却能力を持つマイクロクーリングシステムを実現します。レーザ加工や特殊医療加工等に利用されるレーザはレーザダイオード(LD)の高出力化にともない、空冷から冷却能力のより高い液体冷却(注1)に移行しつつあります。しかし液体冷却は液体を駆動するための大掛かりなポンプとラジエータ等が必要なことから冷却システムが大型化し、また冷却液体に純水を使用する場合、微生物などが繁殖するメンテナンス性の問題がありました。今回開発する沸騰型マイクロチャネルは、リソグラフィーによる微細加工技術を活用した機械的可動部の無い、低電圧で駆動するマイクロポンプと組み合わせて省スペース・高熱除去性能を実現します。また、冷媒にフッ素系液体を使用するのでメンテナンス等の問題も殆んどありません。現在、マイクロポンプ及びマイクロチャネルを個別に開発していますが、将来的にはこれらをシステム化したマイクロクーリングシステムの実用化を目指します。2008年9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、今回開発した沸騰型マイクロチャネル及び可動部レスマイクロポンプを披露します。
(注1)ヒートシンク(注2)やヒートパイプ(注3)等を利用して空冷していたものを、マイクロチャネルを使用して液体(通常は純水)を循環させる冷却方式のこと。
(注2)発熱する機械・電気部品に取り付けて熱の放散によって温度を下げることを目的にした放熱器や放熱板等の部品のこと。熱が伝導しやすい金属が材料として用いられることが多い。
(注3)パイプ中の一方で熱により作動液を蒸発(潜熱の吸収)させ、もう一方を冷却することで、作動液を凝縮(潜熱の放出)することにより熱を吸収する部品。
1.背景及び研究概要
レーザ加工や特殊医療機器等に利用されるレーザは、レーザダイオード(LD)の高出力化が進んでいます。現在ではLDチップの発熱量はコンピュータのCPUの発熱量を上回る100W/cm2以上となり、冷却システムの性能の良し悪しがこれまで以上に製品の寿命に影響を及ぼしています。そのため、冷却システムはこれまで主流であった空冷から、より冷却能力の高い液体冷却へと移行しつつあります。しかし、液体冷却は液体を駆動するポンプとラジエータ等の装置で構成されているため、空冷と比べるとシステム全体が大きく、加えて冷却液体が腐食する等のメンテナンス性の悪さが課題となっています。また液体冷却に使われるマイクロチャネルはマイクロオーダーの流路に液体を流して熱除去性能を高める技術ですが、微細な溝に通水を行なうため圧力損失が大きくなり、また、現行のイオン駆動型マイクロポンプは数10kVの高電圧を掛けなければならない問題がありました。
そこで、本研究グループでは、100W/cm2以上の発熱量に対応できる沸騰型マイクロチャネルを開発しました。最も冷却能力の高い沸騰現象(高い蒸発潜熱)を応用した技術で、マイクロチャネル内で蒸発した蒸気の浮力を利用して純水を循環させます。蒸気の浮力を利用するため姿勢による性能変化が著しいので、これまでに本研究グループが蓄積してきたリソグラフィー技術を応用して作製した可動部レスマイクロポンプを組み合わせます。また、冷媒には電界を印加するだけで圧力や流れが発生するフッ素系液体を利用しますが、これにより冷媒の腐食もなくなります。電極間距離をマイクロ化した電極を複数並列することで、低い電圧(1kV以下程度)でも液体中に高い電界を発生させてポンプ内の圧力・流量を高めることができます。可動部レスなので、モータ、羽根車、ピストン、あるいはダイヤフラム(振動薄膜)といった構成部品を必要としておらず、非常に小さな冷却システム(マイクロクーリングシステム)の構築に適しています。更に、将来的には、冷媒にフッ素系液体を使用して、冷却能力をより高めたマイクロクーリングシステムの実用化を目指して行きます。
(可動部レスマイクロポンプ(EHDポンプ)(注4)は、電気絶縁体性液体に電界を印加するだけで圧力や流れが発生します。その際、電極間距離をマイクロ化(60μm程度)した電極(電極の幅120μm)を複数並列して用いることで、各電極間に低い電圧を印加するだけで高い電界を掛けることが可能になります。)
(注4)電気流体力学(Electrohydrodynamics)現象を利用したポンプのこと。電気絶縁性液体に高電圧を印加すると,流れと圧力が発生する。微量のイオン交換水を加えることで、含水率の増加に伴いポンプの流量は増加し,効率も高くなることがわかった。(0.2%ほど添加すると効率は2倍以上にアップする。)
2.競合技術への強み
本技術の特徴は以下の通りです。
1. 今回開発した沸騰型マイクロチャネルは、冷却能力の最も高い沸騰熱伝達現象を応用した技術で、100W/cm2以上の熱除去に対応できます(研究段階の試算)。
2. 現行のイオン駆動型マイクロポンプは10kV以上の電圧を必要としますが、本研究グループが開発した可動部レスマイクロポンプにリソグラフィーによる微細加工技術を活用したマイクロ電極を用いることで1kV以下の低電圧でポンプ内に高い圧力・流れを生み出します。
3. マイクロチャネルにマイクロポンプを組み込み、かつポンプは可動部品を必要としないので、冷却システムの小型化に適しています。またリソグラフィー技術により大面積化(φ10〜20cm)も可能です。
4. 低電圧、低流量、低損失で、メンテナンス性に優れます。
5. 現在は冷媒の液体に純水を用いているが、水よりも沸点温度の低いフッ素系液体を利用すれば更に60℃以下で沸騰熱伝達冷却をすることが可能となり、更に冷却能力を高めることができます。
3.今後の展望
本センターは、今回開発した沸騰型マイクロチャネルと可動部レスマイクロポンプの研究開発成果及び知識を活かし、これらをシステム化したマイクロクーリングシステムの実用化のための研究を本格的に開始します。9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にてマイクロチャンネル及び可動部レスマイクロポンプを展示・披露し、本技術に関心のある企業との情報交換や連携を図って行く予定です。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成 6年(1994)4月 株式会社ブリヂストン TBタイヤ開発部、平成 8年(1996)6月 山形大学工学部機械システム工学科助手、平成13年(2001)9月 文部科学省在外研究員(甲種研究員)、 アメリカ合衆国メリーランド大学機械工学科助手、平成14年(2002)9月 山形大学工学部機械システム工学科助手、平成18年(2006)4月 山形大学学術情報基盤センター准教授
5.参考
・ 技術提案資料
・ 詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20080912-2_tn.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
山形大学学術情報基盤センター
【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、山形大学 学術情報基盤センターの准教授、鹿野一郎氏は、省スペースで発熱量100W/cm2以上の熱除去に対応できる沸騰型マイクロチャネルの開発を開始しました。この技術は、熱除去能力の最も高い沸騰現象を応用してマイクロチャネル内で冷媒としてフッ素系液体を循環させる技術で、省スペースで高い冷却能力を持つマイクロクーリングシステムを実現します。レーザ加工や特殊医療加工等に利用されるレーザはレーザダイオード(LD)の高出力化にともない、空冷から冷却能力のより高い液体冷却(注1)に移行しつつあります。しかし液体冷却は液体を駆動するための大掛かりなポンプとラジエータ等が必要なことから冷却システムが大型化し、また冷却液体に純水を使用する場合、微生物などが繁殖するメンテナンス性の問題がありました。今回開発する沸騰型マイクロチャネルは、リソグラフィーによる微細加工技術を活用した機械的可動部の無い、低電圧で駆動するマイクロポンプと組み合わせて省スペース・高熱除去性能を実現します。また、冷媒にフッ素系液体を使用するのでメンテナンス等の問題も殆んどありません。現在、マイクロポンプ及びマイクロチャネルを個別に開発していますが、将来的にはこれらをシステム化したマイクロクーリングシステムの実用化を目指します。2008年9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にて、今回開発した沸騰型マイクロチャネル及び可動部レスマイクロポンプを披露します。
(注1)ヒートシンク(注2)やヒートパイプ(注3)等を利用して空冷していたものを、マイクロチャネルを使用して液体(通常は純水)を循環させる冷却方式のこと。
(注2)発熱する機械・電気部品に取り付けて熱の放散によって温度を下げることを目的にした放熱器や放熱板等の部品のこと。熱が伝導しやすい金属が材料として用いられることが多い。
(注3)パイプ中の一方で熱により作動液を蒸発(潜熱の吸収)させ、もう一方を冷却することで、作動液を凝縮(潜熱の放出)することにより熱を吸収する部品。
1.背景及び研究概要
レーザ加工や特殊医療機器等に利用されるレーザは、レーザダイオード(LD)の高出力化が進んでいます。現在ではLDチップの発熱量はコンピュータのCPUの発熱量を上回る100W/cm2以上となり、冷却システムの性能の良し悪しがこれまで以上に製品の寿命に影響を及ぼしています。そのため、冷却システムはこれまで主流であった空冷から、より冷却能力の高い液体冷却へと移行しつつあります。しかし、液体冷却は液体を駆動するポンプとラジエータ等の装置で構成されているため、空冷と比べるとシステム全体が大きく、加えて冷却液体が腐食する等のメンテナンス性の悪さが課題となっています。また液体冷却に使われるマイクロチャネルはマイクロオーダーの流路に液体を流して熱除去性能を高める技術ですが、微細な溝に通水を行なうため圧力損失が大きくなり、また、現行のイオン駆動型マイクロポンプは数10kVの高電圧を掛けなければならない問題がありました。
そこで、本研究グループでは、100W/cm2以上の発熱量に対応できる沸騰型マイクロチャネルを開発しました。最も冷却能力の高い沸騰現象(高い蒸発潜熱)を応用した技術で、マイクロチャネル内で蒸発した蒸気の浮力を利用して純水を循環させます。蒸気の浮力を利用するため姿勢による性能変化が著しいので、これまでに本研究グループが蓄積してきたリソグラフィー技術を応用して作製した可動部レスマイクロポンプを組み合わせます。また、冷媒には電界を印加するだけで圧力や流れが発生するフッ素系液体を利用しますが、これにより冷媒の腐食もなくなります。電極間距離をマイクロ化した電極を複数並列することで、低い電圧(1kV以下程度)でも液体中に高い電界を発生させてポンプ内の圧力・流量を高めることができます。可動部レスなので、モータ、羽根車、ピストン、あるいはダイヤフラム(振動薄膜)といった構成部品を必要としておらず、非常に小さな冷却システム(マイクロクーリングシステム)の構築に適しています。更に、将来的には、冷媒にフッ素系液体を使用して、冷却能力をより高めたマイクロクーリングシステムの実用化を目指して行きます。
(可動部レスマイクロポンプ(EHDポンプ)(注4)は、電気絶縁体性液体に電界を印加するだけで圧力や流れが発生します。その際、電極間距離をマイクロ化(60μm程度)した電極(電極の幅120μm)を複数並列して用いることで、各電極間に低い電圧を印加するだけで高い電界を掛けることが可能になります。)
(注4)電気流体力学(Electrohydrodynamics)現象を利用したポンプのこと。電気絶縁性液体に高電圧を印加すると,流れと圧力が発生する。微量のイオン交換水を加えることで、含水率の増加に伴いポンプの流量は増加し,効率も高くなることがわかった。(0.2%ほど添加すると効率は2倍以上にアップする。)
2.競合技術への強み
本技術の特徴は以下の通りです。
1. 今回開発した沸騰型マイクロチャネルは、冷却能力の最も高い沸騰熱伝達現象を応用した技術で、100W/cm2以上の熱除去に対応できます(研究段階の試算)。
2. 現行のイオン駆動型マイクロポンプは10kV以上の電圧を必要としますが、本研究グループが開発した可動部レスマイクロポンプにリソグラフィーによる微細加工技術を活用したマイクロ電極を用いることで1kV以下の低電圧でポンプ内に高い圧力・流れを生み出します。
3. マイクロチャネルにマイクロポンプを組み込み、かつポンプは可動部品を必要としないので、冷却システムの小型化に適しています。またリソグラフィー技術により大面積化(φ10〜20cm)も可能です。
4. 低電圧、低流量、低損失で、メンテナンス性に優れます。
5. 現在は冷媒の液体に純水を用いているが、水よりも沸点温度の低いフッ素系液体を利用すれば更に60℃以下で沸騰熱伝達冷却をすることが可能となり、更に冷却能力を高めることができます。
3.今後の展望
本センターは、今回開発した沸騰型マイクロチャネルと可動部レスマイクロポンプの研究開発成果及び知識を活かし、これらをシステム化したマイクロクーリングシステムの実用化のための研究を本格的に開始します。9月16日より東京国際フォーラムで開催される「イノベーション・ジャパン2008」にてマイクロチャンネル及び可動部レスマイクロポンプを展示・披露し、本技術に関心のある企業との情報交換や連携を図って行く予定です。
4.その他
(1)研究者の略歴
平成 6年(1994)4月 株式会社ブリヂストン TBタイヤ開発部、平成 8年(1996)6月 山形大学工学部機械システム工学科助手、平成13年(2001)9月 文部科学省在外研究員(甲種研究員)、 アメリカ合衆国メリーランド大学機械工学科助手、平成14年(2002)9月 山形大学工学部機械システム工学科助手、平成18年(2006)4月 山形大学学術情報基盤センター准教授
5.参考
・ 技術提案資料
・ 詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20080912-2_tn.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。