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量子化された“相対論的”準粒子を微視的に観測 ― ディラック電子の量子ホール効果の特異性を解明 ―




静岡大学理学部の清水康弘教授の研究グループは、名古屋大学大学院理学研究科の小林義明准教授・松下琢講師の研究グループと共同で、相対論的な運動方程式に従うディラック電子の量子化に伴う特異な磁気励起の観測に成功しました。

【研究のポイント】

・量子ホール状態において異方的なスピン励起を観測
・スピン軌道相互作用の強いディラック半金属に特有の準粒子


本研究は、核磁気共鳴法(NMR)を用いて、量子ホール状態のバルク磁気励起を初めて明らかにしました。グラフェンなどの電子の有効質量がゼロに近いディラック半金属では、弱い磁場で電子の軌道運動のランダウ量子化が起きますが、相対論的な効果であるスピン軌道相互作用(SOC)の影響は未解明でした。同研究グループは、SOCの大きなビスマス化合物において、NMRで電子スピンの低エネルギー励起を調べた結果、極低温下の量子化によってスピン励起が100倍以上増大することを見つけました。この結果は、SOCの弱いグラフェンの模型とは異なり、スピン分極の根拠を与えるものです。

本研究で得られた研究成果は、電荷、スピン、バレーの自由度をもつディラック電子の性質を調べる上で新たな手法を提供するものです。これまで、電荷をみる手法が主流でしたが、スピン反転を直接観測するNMRが有効であることを新たに示したことで、今後次世代エレクトロニクスの制御・計測手法へと発展していくと期待されます。


なお、本研究成果は、2026年3月10日に、アメリカ物理学会の発行する国際雑誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

【研究者コメント】


静岡大学理学部 教授・清水康弘

量子ホール効果は、超伝導と並んで多くの電子が集まって起きる現象のハイライトです。その基本的なバルクの性質を初めて明らかにできたことで、スピン・バレートロニクスの技術に役立つかもしれません。


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/123/96787-123-08b399c546aafa10489c250fd4aa9aaa-398x361.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【研究概要】

二次元ディラック半金属※1において、極低温で量子化に伴う極めて強い磁気励起を核磁気共鳴(NMR) ※2で観測しました。相対論的な電子の集団運動が示す特異な性質によるものであり、次世代のエレクトロニクスの新原理を与えると期待されます。

【研究背景】

量子ホール効果※3は、これまで極低温・強磁場かつ高純度試料を必要としてきました。しかし、21世紀になって、グラフェンなどの二次元ディラック電子系が開発され、高温・低磁場でも観測が可能となっています。ただ、電子の相対論的な運動の効果は、明確に理解されていませんでした。

【研究の成果】

ディラック半金属の中でも重元素からなる物質では、強いスピン軌道相互作用から相対論的な効果が期待されます。そこで、安定な元素の中で最も重いビスマス化合物(BaMnBi2)が理想的なディラック半金属であることに着目し、その磁気励起をNMRで微視的に調べました。Mnイオンは磁気秩序し強い磁化を発生するため、バルクの磁化測定ではディラック電子を直接見れませんが、NMRを使うとディラック電子のいるBiサイトを選択的に検出することが可能となります。NMR緩和率の温度、磁場、方位依存性を詳細に調べた結果、動ける電子のエネルギーがディラック点近傍に位置することがわかりました。また、磁場下で軌道運動が量子化した状態の緩和率(B||c)が、磁場の影響のない状態(B||a)に比べて極低温で100倍以上にまで増大することを見出しました。これは二次元ディラック方程式に基づく理論計算から予想されたものよりはるかに大きく、スピン軌道相互作用によってスピン分極が増大した効果を考慮する必要があることを意味しています。

【今後の展望と波及効果】

ディラック半金属では、スピン、軌道、バレーの自由度が複雑に絡み合って、新しい創発的な量子現象が生まれます。それらを電気・磁気的に制御することができれば、次世代のエレクトロニクスに有用なものとなります。特に、電荷の移動度が高く、散逸の小さなディラック半金属は、エネルギー問題の解決につながるため注目されています。これまで課題であったスピンの基本的な性質を調べる手法を確立したことで、今後様々な類似物質への応用が期待されます。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/123/96787-123-73e1b2261776d6206086a6add03b2ceb-833x349.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


【論文情報】

掲載誌名: Physical Review Letters


論文タイトル: Condensed spin excitation of quantized Dirac fermions in the quasi-two-dimensional semimetal BaMnBi2


著者: Masashi Kumazaki, Azimjon Temurjonov, Takaaki Jinno, Yukihiro Watanabe, Taku Matsuhita, Yoshiaki Kobayashi, Yasuhiro Shimizu


DOI: https://doi.org/10.1103/kx86-56ww

【研究助成】

本研究は日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP19H05824, JP23H04025, JP24H00954)による助成を受けたものです。

【用語説明】

注1: ディラック半金属
相対論的な素粒子の運動方程式はディラック方程式とよばれ、場の量子論の基礎となる。ディラック半金属は、エネルギーと波数が線形関係にある金属で、電子の集団運動(準粒子)はディラック方程式に従う。二つの線形分散の交点(ディラック点)では、電荷の有効質量がゼロとなる。波数空間内でディラック点が縮退した状態をバレー(縮退)とよぶ。磁場中では、電子の軌道運動のエネルギーが量子化(ランダウ量子化)され、とびとびの値をとることで、多くの電子のエネルギーが縮退する。通常の金属では強い磁場が必要だが、ディラック半金属では弱い磁場でも量子化が起きる。

注2: 核磁気共鳴法(NMR)
磁場中の核スピンにラジオ波を共鳴吸収させて、原子核まわりの磁場を精密に測定する分光法。核スピンが吸収した電磁波のエネルギーは、周囲の電子スピンの反転(スピン格子緩和)に使われる。金属の緩和率は、電子スピン濃度の2乗に比例する。

注3: 量子ホール効果
二次元面内に電子の運動が制限された状態で、垂直方向に磁場をかけると、ランダウ量子化した電子の円軌道は局在する。試料の端を動く電子のみが端で跳ね返され、無散逸の電流が一方向に流れる。このとき電流の垂直方向のホール電圧はとびとびの値をとるため、量子ホール効果とよばれる。量子位相が顕著に物性に現れるトポロジカル状態のひとつであり、量子エンタングルメントを実験的に調べる上でも重要な舞台となっている。
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