2型糖尿病における「脳のインスリン抵抗性」は視床下部後核に局在することを解明
[26/06/11]
提供元:PRTIMES
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― 高解像度機能的MRIによる視床下部核レベルでの解析 ―
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の加賀英義准教授、田村好史教授、綿田裕孝主任教授、神経生理学の長田貴宏准教授、小西清貴主任教授らの研究グループは、高解像度機能的MRI(fMRI)と経鼻インスリン投与を組み合わせることで、2型糖尿病における脳のインスリン反応を詳細に解析しました。
その結果、健常者ではインスリン投与後に視床下部後核(*1)の活動が速やかに低下した一方、2型糖尿病患者ではこの反応が消失していることを発見しました。さらに、約1,600名の地域在住高齢者を対象とした構造MRI解析では、2型糖尿病患者で同領域の灰白質容積が低下していることも確認されました。
本研究により、これまで漠然と捉えられていた「脳のインスリン抵抗性(*2)」が、視床下部後核という特定の神経核に局在する可能性が示され、糖尿病の新たな病態理解や治療標的の探索につながることが期待されます。本成果は「JCI Insight」のオンライン版に2026年6月8日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 2型糖尿病における脳インスリン抵抗性を視床下部核レベルで初めて高精度に同定
● 脳インスリン抵抗性は視床下部後核に選択的に生じることを発見
● 約1,600名の地域在住高齢者コホートを用いた構造MRI解析により、後部視床下部の灰白質容積の低下を確認
● 脳機能異常が構造変化に先行する可能性を提示し、脳を標的とした新たな代謝介入研究への道を開く
背景
2型糖尿病では、肝臓・骨格筋・脂肪組織など末梢組織におけるインスリン抵抗性が主要な病態として知られています。一方、近年では脳、特に視床下部(*3)におけるインスリン作用が、食欲、エネルギー消費、血糖恒常性の維持に重要であることが明らかになってきました。
実際に、肥満や糖尿病患者では、経鼻投与したインスリンに対する脳活動変化が低下することが報告されており、「脳インスリン抵抗性」という概念が提唱されています。しかし、従来の脳画像研究では視床下部全体を一つの領域として評価することが多く、視床下部のどの神経核が糖尿病で障害されているのかは明らかではありませんでした。
視床下部には、摂食、体温調節、交感神経活動、エネルギー消費など異なる役割を持つ複数の神経核が存在します。そのため、糖尿病における脳インスリン抵抗性の本態を理解するためには、従来よりも高い空間分解能で、神経核レベルの解析が必要とされていました。
そこで本研究では、高解像度機能的MRI(fMRI)(*4)を用いて、2型糖尿病における脳インスリン応答を視床下部内の領域ごとに評価し、さらに約1,600名の地域在住高齢者の構造MRI解析を組み合わせることで、脳機能異常と脳構造変化との関連を検討しました。
内容
本研究では、機能評価(Study 1)と構造評価(Study 2)の2つの解析を実施しました。
まずStudy 1では、40〜64歳の日本人男性41名(2型糖尿病患者21名、健常対照20名)を対象に、経鼻インスリン投与を併用した高解像度機能的MRI(fMRI)を用いて脳のインスリン応答を評価しました。
被験者は前夜から絶食した状態でMRI撮像を開始し、撮像中に鼻腔内へインスリンを投与しました(経鼻インスリン投与)。経鼻投与は血液脳関門(*5)を介さず比較的直接的に脳へインスリンを到達させることができるため、中枢神経におけるインスリン反応を評価する研究手法として用いられています。MRI撮像は投与前15分から投与後30分まで連続して実施し、血液検査も併用して末梢代謝変化を確認しました。
解析では、これまでの研究で定義した視床下部内の6つの機能領域(弓状核、背内側核、室傍核、腹内側核、後核、外側視床下部)を対象に、時間経過に伴うMRI信号変化を比較しました。
その結果、健常群ではインスリン投与後わずか5分で視床下部後核において明瞭な信号低下が認められ、脳がインスリン刺激へ迅速に応答していることが確認されました(図1)。一方、2型糖尿病群ではこの反応が消失しており、同領域においてインスリン感受性が低下していることが示されました。他の視床下部領域では同様の変化は認められず、脳インスリン抵抗性が特定領域に局在する可能性が示唆されました。
さらにStudy 2では、文京ヘルススタディ(*6)に参加した高齢者1,609名(糖尿病群209名、非糖尿病群1,400名)の脳MRIデータを解析し、視床下部の灰白質容積を比較しました。
その結果、糖尿病群では視床下部全体で灰白質容積の低下がみられましたが、特に後部視床下部で最も顕著な容積低下が確認されました(図2)。興味深いことに、中年層を対象としたStudy 1では構造変化が認められなかった一方、機能異常はすでに出現していたことから、糖尿病ではまず脳のインスリン応答異常が生じ、その後長期の代謝負荷に伴って構造変化が進行する可能性が示唆されました。
今後の展開
本研究では、2型糖尿病における脳インスリン抵抗性が、視床下部全体ではなく後部視床下部を中心として生じる可能性を示しました。一方で、本研究は横断研究であり、脳機能異常が糖尿病の原因なのか、あるいは糖尿病の進行に伴って生じる変化なのかについては明らかではありません。今後は、食事療法、運動療法、糖尿病治療薬などの介入によって後部視床下部のインスリン応答が改善するかを検証する介入研究を進め、脳インスリン抵抗性が可逆的な病態であるかを明らかにしていく予定です。
また、視床下部は血糖調節だけでなく、食欲やエネルギー代謝の制御にも深く関与していることから、本研究成果は糖尿病領域を超えて幅広い応用可能性を有しています。特に高齢期では、加齢に伴う食欲低下や低栄養がフレイルや要介護状態の重要な要因となることが知られており、脳のインスリン感受性低下がこれらの背景機序の一つである可能性があります。今後は、高齢者における食欲低下や低栄養状態と視床下部機能との関連を明らかにし、健康寿命延伸につながる予防法や介入法の開発を目指します。
さらに、近年日本で社会課題となっている若年女性のやせについても、脳インスリン作用の観点から新たな理解につながることが期待されます。過度なやせや慢性的なエネルギー不足は、将来的な糖代謝異常や代謝適応異常と関連する可能性が指摘されています。今後、若年女性を対象として、栄養状態や体組成と脳インスリン感受性との関連を検討し、適切な食習慣や代謝健康を維持するための新たな予防戦略の構築につなげたいと考えています。
本研究を基盤として、脳を標的とした新たな代謝制御メカニズムの解明を進めることで、糖尿病のみならず、低栄養、フレイル、やせなどライフコース全体を通じた代謝健康の維持・増進への応用を目指します。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/879/21495-879-02f801419172c1fe35333bd7a29eb2b4-1068x530.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:経鼻インスリン投与後のMRI信号変化
健常群では、視床下部後核において、経鼻インスリン投与後早期にMRI信号低下を認める。一方、2型糖尿病群では、この反応が消失している。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/879/21495-879-01c23941df4252a5126359075651ecc4-882x631.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:糖尿病のある高齢者とない高齢者の視床下部の灰白質量の比較
糖尿病群では視床下部全体で灰白質容積の低下がみられた。特に後部視床下部で最も顕著な容積低下が確認された。
用語解説
*1 視床下部後核:視床下部の後方に位置する神経核群で、体温調節、自律神経活動、エネルギー消費などに関与すると考えられています。本研究では、2型糖尿病患者において、この後部視床下部のインスリン応答が選択的に低下していることを明らかにしました。
*2 インスリン抵抗性:血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に分泌されていても、体や臓器がインスリンに反応しにくくなり、本来の作用が発揮されにくくなる状態です。2型糖尿病の主要な病態であり、これまでは主に肝臓、骨格筋、脂肪組織で研究されてきましたが、近年では脳においてもインスリン抵抗性が存在することが注目されています。
*3 視床下部:脳の深部に存在する小さな領域で、食欲、体温、自律神経、ホルモン分泌、エネルギー代謝、血糖調節など、生体の恒常性維持に重要な役割を担っています。複数の神経核から構成され、それぞれ異なる生理機能を担っています。
*4 高解像度機能的MRI(fMRI):脳活動に伴って変化する血流や血液中の酸素量の変化を画像化し、脳の働きを非侵襲的に評価する画像技術です。本研究では、高解像度fMRIを用いて、経鼻インスリン投与後の視床下部各領域の反応を時系列で評価しました。
*5 血液脳関門:血液中の物質が脳へ自由に移行しないよう制御している生体防御機構です。脳を有害物質から保護する一方で、多くの薬剤やホルモンも脳へ到達しにくくなります。本研究で用いた経鼻インスリン投与は、この血液脳関門を介さず比較的直接的に脳へ作用させる研究手法です。
*6 文京ヘルススタディ:順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるか、などを明らかにする研究。(参照:https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
研究者のコメント
本研究は糖尿病を対象としたものですが、脳のインスリン作用は食欲や栄養状態の調節にも深く関わっています。今後は、運動や食事、薬物によって脳インスリン感受性が改善できるかを検証するとともに、高齢期の食欲低下や低栄養、さらには若年女性のやせといった社会課題にも研究を広げていきたいと考えています。脳から代謝を理解することで、生涯を通じた健康づくりにつながる知見を発信していきたいと思います。
原著論文
本研究はJCI Insightのオンライン版で(2026年6月8日付)先行公開されました。
タイトル: Hypothalamic insulin resistance in type 2 diabetes is localized to the posterior hypothalamus
タイトル(日本語訳): 2型糖尿病における視床下部のインスリン抵抗性は、視床下部後核に局在している
著者: Hideyoshi Kaga,1) Akitoshi Ogawa,2) Takahiro Osada,2) Mai Kiya,1) Satoshi Oka,2) Yusuke Adachi,2) Mengping Yu,2) Shota Sakamoto,3) Saori Kakehi,3) Toshiki Kogai,1) Tsubasa Tajima,1) Hitoshi Naito,1) Naoaki Ito,1) Satoshi Kadowaki,1) Yuya Nishida,1) Ryuzo Kawamori,1),3) Seiki Konishi,2) Hirotaka Watada,1),3) and Yoshifumi Tamura1,3)
著者(日本語表記): 加賀英義、小川昭利、長田貴宏、木屋舞、岡哲史、足立雄哉、Mengping Yu、坂本翔太、筧佐織、小貝俊樹、田島翼、内藤仁嗣、伊藤直顕、門脇聡、西田友哉、河盛隆造、小西清貴、綿田裕孝、田村好史
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学、2)順天堂大学大学院医学研究科神経生理学、3)順天堂大学医学研究科スポートロジーセンター
DOI: 10.1172/jci.insight.198707.
本研究は、日本学術振興会科研費/JP21H03380, JP22K07334, JP21K07255, JP23K27474、AMED-CREST/JP24gm2010005、渡邉財団、日本健康増進財団、日本糖尿病財団の研究助成を受け実施しました。
また、本研究に協力して頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学の加賀英義准教授、田村好史教授、綿田裕孝主任教授、神経生理学の長田貴宏准教授、小西清貴主任教授らの研究グループは、高解像度機能的MRI(fMRI)と経鼻インスリン投与を組み合わせることで、2型糖尿病における脳のインスリン反応を詳細に解析しました。
その結果、健常者ではインスリン投与後に視床下部後核(*1)の活動が速やかに低下した一方、2型糖尿病患者ではこの反応が消失していることを発見しました。さらに、約1,600名の地域在住高齢者を対象とした構造MRI解析では、2型糖尿病患者で同領域の灰白質容積が低下していることも確認されました。
本研究により、これまで漠然と捉えられていた「脳のインスリン抵抗性(*2)」が、視床下部後核という特定の神経核に局在する可能性が示され、糖尿病の新たな病態理解や治療標的の探索につながることが期待されます。本成果は「JCI Insight」のオンライン版に2026年6月8日付で公開されました。
本研究成果のポイント
● 2型糖尿病における脳インスリン抵抗性を視床下部核レベルで初めて高精度に同定
● 脳インスリン抵抗性は視床下部後核に選択的に生じることを発見
● 約1,600名の地域在住高齢者コホートを用いた構造MRI解析により、後部視床下部の灰白質容積の低下を確認
● 脳機能異常が構造変化に先行する可能性を提示し、脳を標的とした新たな代謝介入研究への道を開く
背景
2型糖尿病では、肝臓・骨格筋・脂肪組織など末梢組織におけるインスリン抵抗性が主要な病態として知られています。一方、近年では脳、特に視床下部(*3)におけるインスリン作用が、食欲、エネルギー消費、血糖恒常性の維持に重要であることが明らかになってきました。
実際に、肥満や糖尿病患者では、経鼻投与したインスリンに対する脳活動変化が低下することが報告されており、「脳インスリン抵抗性」という概念が提唱されています。しかし、従来の脳画像研究では視床下部全体を一つの領域として評価することが多く、視床下部のどの神経核が糖尿病で障害されているのかは明らかではありませんでした。
視床下部には、摂食、体温調節、交感神経活動、エネルギー消費など異なる役割を持つ複数の神経核が存在します。そのため、糖尿病における脳インスリン抵抗性の本態を理解するためには、従来よりも高い空間分解能で、神経核レベルの解析が必要とされていました。
そこで本研究では、高解像度機能的MRI(fMRI)(*4)を用いて、2型糖尿病における脳インスリン応答を視床下部内の領域ごとに評価し、さらに約1,600名の地域在住高齢者の構造MRI解析を組み合わせることで、脳機能異常と脳構造変化との関連を検討しました。
内容
本研究では、機能評価(Study 1)と構造評価(Study 2)の2つの解析を実施しました。
まずStudy 1では、40〜64歳の日本人男性41名(2型糖尿病患者21名、健常対照20名)を対象に、経鼻インスリン投与を併用した高解像度機能的MRI(fMRI)を用いて脳のインスリン応答を評価しました。
被験者は前夜から絶食した状態でMRI撮像を開始し、撮像中に鼻腔内へインスリンを投与しました(経鼻インスリン投与)。経鼻投与は血液脳関門(*5)を介さず比較的直接的に脳へインスリンを到達させることができるため、中枢神経におけるインスリン反応を評価する研究手法として用いられています。MRI撮像は投与前15分から投与後30分まで連続して実施し、血液検査も併用して末梢代謝変化を確認しました。
解析では、これまでの研究で定義した視床下部内の6つの機能領域(弓状核、背内側核、室傍核、腹内側核、後核、外側視床下部)を対象に、時間経過に伴うMRI信号変化を比較しました。
その結果、健常群ではインスリン投与後わずか5分で視床下部後核において明瞭な信号低下が認められ、脳がインスリン刺激へ迅速に応答していることが確認されました(図1)。一方、2型糖尿病群ではこの反応が消失しており、同領域においてインスリン感受性が低下していることが示されました。他の視床下部領域では同様の変化は認められず、脳インスリン抵抗性が特定領域に局在する可能性が示唆されました。
さらにStudy 2では、文京ヘルススタディ(*6)に参加した高齢者1,609名(糖尿病群209名、非糖尿病群1,400名)の脳MRIデータを解析し、視床下部の灰白質容積を比較しました。
その結果、糖尿病群では視床下部全体で灰白質容積の低下がみられましたが、特に後部視床下部で最も顕著な容積低下が確認されました(図2)。興味深いことに、中年層を対象としたStudy 1では構造変化が認められなかった一方、機能異常はすでに出現していたことから、糖尿病ではまず脳のインスリン応答異常が生じ、その後長期の代謝負荷に伴って構造変化が進行する可能性が示唆されました。
今後の展開
本研究では、2型糖尿病における脳インスリン抵抗性が、視床下部全体ではなく後部視床下部を中心として生じる可能性を示しました。一方で、本研究は横断研究であり、脳機能異常が糖尿病の原因なのか、あるいは糖尿病の進行に伴って生じる変化なのかについては明らかではありません。今後は、食事療法、運動療法、糖尿病治療薬などの介入によって後部視床下部のインスリン応答が改善するかを検証する介入研究を進め、脳インスリン抵抗性が可逆的な病態であるかを明らかにしていく予定です。
また、視床下部は血糖調節だけでなく、食欲やエネルギー代謝の制御にも深く関与していることから、本研究成果は糖尿病領域を超えて幅広い応用可能性を有しています。特に高齢期では、加齢に伴う食欲低下や低栄養がフレイルや要介護状態の重要な要因となることが知られており、脳のインスリン感受性低下がこれらの背景機序の一つである可能性があります。今後は、高齢者における食欲低下や低栄養状態と視床下部機能との関連を明らかにし、健康寿命延伸につながる予防法や介入法の開発を目指します。
さらに、近年日本で社会課題となっている若年女性のやせについても、脳インスリン作用の観点から新たな理解につながることが期待されます。過度なやせや慢性的なエネルギー不足は、将来的な糖代謝異常や代謝適応異常と関連する可能性が指摘されています。今後、若年女性を対象として、栄養状態や体組成と脳インスリン感受性との関連を検討し、適切な食習慣や代謝健康を維持するための新たな予防戦略の構築につなげたいと考えています。
本研究を基盤として、脳を標的とした新たな代謝制御メカニズムの解明を進めることで、糖尿病のみならず、低栄養、フレイル、やせなどライフコース全体を通じた代謝健康の維持・増進への応用を目指します。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/879/21495-879-02f801419172c1fe35333bd7a29eb2b4-1068x530.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:経鼻インスリン投与後のMRI信号変化
健常群では、視床下部後核において、経鼻インスリン投与後早期にMRI信号低下を認める。一方、2型糖尿病群では、この反応が消失している。
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/21495/879/21495-879-01c23941df4252a5126359075651ecc4-882x631.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図2:糖尿病のある高齢者とない高齢者の視床下部の灰白質量の比較
糖尿病群では視床下部全体で灰白質容積の低下がみられた。特に後部視床下部で最も顕著な容積低下が確認された。
用語解説
*1 視床下部後核:視床下部の後方に位置する神経核群で、体温調節、自律神経活動、エネルギー消費などに関与すると考えられています。本研究では、2型糖尿病患者において、この後部視床下部のインスリン応答が選択的に低下していることを明らかにしました。
*2 インスリン抵抗性:血糖値を下げるホルモンであるインスリンが十分に分泌されていても、体や臓器がインスリンに反応しにくくなり、本来の作用が発揮されにくくなる状態です。2型糖尿病の主要な病態であり、これまでは主に肝臓、骨格筋、脂肪組織で研究されてきましたが、近年では脳においてもインスリン抵抗性が存在することが注目されています。
*3 視床下部:脳の深部に存在する小さな領域で、食欲、体温、自律神経、ホルモン分泌、エネルギー代謝、血糖調節など、生体の恒常性維持に重要な役割を担っています。複数の神経核から構成され、それぞれ異なる生理機能を担っています。
*4 高解像度機能的MRI(fMRI):脳活動に伴って変化する血流や血液中の酸素量の変化を画像化し、脳の働きを非侵襲的に評価する画像技術です。本研究では、高解像度fMRIを用いて、経鼻インスリン投与後の視床下部各領域の反応を時系列で評価しました。
*5 血液脳関門:血液中の物質が脳へ自由に移行しないよう制御している生体防御機構です。脳を有害物質から保護する一方で、多くの薬剤やホルモンも脳へ到達しにくくなります。本研究で用いた経鼻インスリン投与は、この血液脳関門を介さず比較的直接的に脳へ作用させる研究手法です。
*6 文京ヘルススタディ:順天堂大学大学院医学研究科 スポートロジーセンターで行われている、東京都文京区在住の1,629名の高齢者を対象として、認知機能・運動機能などが「いつから」「どのような人が」「なぜ」低下するのか、「どのように」早期の発見・予防が可能となるか、などを明らかにする研究。(参照:https://research-center.juntendo.ac.jp/sportology/research/bunkyo/)
研究者のコメント
本研究は糖尿病を対象としたものですが、脳のインスリン作用は食欲や栄養状態の調節にも深く関わっています。今後は、運動や食事、薬物によって脳インスリン感受性が改善できるかを検証するとともに、高齢期の食欲低下や低栄養、さらには若年女性のやせといった社会課題にも研究を広げていきたいと考えています。脳から代謝を理解することで、生涯を通じた健康づくりにつながる知見を発信していきたいと思います。
原著論文
本研究はJCI Insightのオンライン版で(2026年6月8日付)先行公開されました。
タイトル: Hypothalamic insulin resistance in type 2 diabetes is localized to the posterior hypothalamus
タイトル(日本語訳): 2型糖尿病における視床下部のインスリン抵抗性は、視床下部後核に局在している
著者: Hideyoshi Kaga,1) Akitoshi Ogawa,2) Takahiro Osada,2) Mai Kiya,1) Satoshi Oka,2) Yusuke Adachi,2) Mengping Yu,2) Shota Sakamoto,3) Saori Kakehi,3) Toshiki Kogai,1) Tsubasa Tajima,1) Hitoshi Naito,1) Naoaki Ito,1) Satoshi Kadowaki,1) Yuya Nishida,1) Ryuzo Kawamori,1),3) Seiki Konishi,2) Hirotaka Watada,1),3) and Yoshifumi Tamura1,3)
著者(日本語表記): 加賀英義、小川昭利、長田貴宏、木屋舞、岡哲史、足立雄哉、Mengping Yu、坂本翔太、筧佐織、小貝俊樹、田島翼、内藤仁嗣、伊藤直顕、門脇聡、西田友哉、河盛隆造、小西清貴、綿田裕孝、田村好史
著者所属:1)順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学、2)順天堂大学大学院医学研究科神経生理学、3)順天堂大学医学研究科スポートロジーセンター
DOI: 10.1172/jci.insight.198707.
本研究は、日本学術振興会科研費/JP21H03380, JP22K07334, JP21K07255, JP23K27474、AMED-CREST/JP24gm2010005、渡邉財団、日本健康増進財団、日本糖尿病財団の研究助成を受け実施しました。
また、本研究に協力して頂きました参加者様のご厚意に深謝いたします。










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