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模擬実験で隕石アミノ酸の同位体組成を再現

−小惑星有機物の主要生成反応のひとつが明らかに−

令和3年4月27日
東北大学大学院理学研究科
北海道大学低温科学研究所

【発表のポイント】
・隕石中のアミノ酸の炭素同位体組成の特徴が、糖を化学的に合成する反応として知られるホルモース型反応(注)によって再現できることを発見した。
・ホルモース型反応が、小惑星有機物の主要な生成反応の一つであった。
・小惑星に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物は、極低温環境に特異的に存在する材料ではなく、これまで考えられていたよりもはるかに広範囲に分布していた一般的な材料から生成されていた。

【概要】
隕石に含まれるアミノ酸や糖、核酸塩基などの低分子有 機物は、その特異的な炭素同位体組成(13C の濃縮)から、 太陽系外縁部や太陽集積前の極低温環境でできた分子か ら作られたと考えられてきました。 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202104163774-O3-Y4bxzJDT
図1. アミノ酸, 糖, 不溶性有機物を含むマーチソン隕石 ©?Yoshihiro Furukawa

東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、岩佐義 成さん(当時博士課程前期2年)、北海道大学低温科学研究 所の力石嘉人教授の研究グループは、隕石に含まれる主要 な有機物である不溶性有機物とアミノ酸や糖などの低分子 有機物との間に存在する大きな炭素同位体組成の差が、隕 石有機物の生成反応の一つとして提案されてきたホルモー ス型反応によって再現できることを明らかにしました。 本研究の成果によって、小惑星に含まれるアミノ酸や糖な どの低分子有機物は、これまで考えられていたよりもはるか に広範囲に分布した一般的な材料から生成されていたことが示されました。 本研究成果は、2021 年4 月29 日に米国科学振興協会(AAAS)が発行する 『Science Advances』で公開されました。

【発表内容】

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202104163774-O6-drWZKXR2
図2. はやぶさ2が試料を回収した小惑星Ryugu ©? JAXA/東大/他

隕石は小惑星から飛来した物質で、一部の隕石は約46 億年前に生成したアミノ酸や糖などの生命の材料となる有 機物を含んでいます。そのため、隕石に含まれる有機物が 生命誕生前の地球に飛来して、生命の材料となった可能 性が指摘され、JAXA の探査機はやぶさ2やNASA の探 査機OSIRIS-Rex よって精力的に探査が行われています (図2)。しかし、隕石の含まれる有機物が、どのような材料 からどのような反応で生成したのかは、多くの可能性があ ってこれまで明らかになっていませんでした。 東北大学大学院理学研究科の古川善博准教授、岩佐 義成さん(当時博士課程前期2年)、北海道大学低温科学 研究所の力石嘉人教授の研究グループは、炭素質隕石 に含まれるアミノ酸や糖などの低分子有機物が炭素の13C 同位体を多く含み、逆に隕 石中の主要な有機物である不溶性有機物が炭素の12C同位体を多く含む特徴を持つ ことに着目し、この同位体組成の特徴が糖を化学的に合成する反応として知られるホ ルモース型反応に伴う炭素同位体の挙動で説明できるという仮説を立て、それを検証 するための模擬実験を行いました。生成したアミノ酸と不溶性有機物の炭素同位体組 成の分析を行った結果、アミノ酸は炭素の13C 同位体を多く含み、不溶性有機物は炭 素の12C 同位体を多く含み、その差は隕石有機物の特徴に合致することが明らかにな りました(図3)。さらに、生成したカルボン酸とアミンの相対濃度が隕石中のカルボン 酸とアミンの総体濃度と合致すること も明らかになりました。

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202104163774-O7-6i5F40bC
図3. 隕石有機物とホルモース型反応合成有機物の炭素同位体組成

これまで、隕石アミノ酸の炭素同 位体組成の特徴はアミノ酸を作った 材料分子が10 K(-263℃)以下の極 低温環境で生成することによるものと 考えられてきました。しかし、実際に そのような環境で隕石有機物の炭素 同位体組成に相当する特徴を持つ アミノ酸や不溶性有機物が生成する 実験結果は得られていません。本研 究の成果は、隕石アミノ酸と不溶性 有機物の炭素同位体組成の特徴が 極低温環境で生成する材料に限ら ず、はるかに広範囲に分布する炭 素同位体組成に差のない材料から 作り出されていたことを示すものす。また、先行研究によってホルモース型反応の生成物組成が隕石中に含まれる不 溶性有機物、アミノ酸、糖、含窒素ヘテロ環化合物などの様々な有機物組成と類似す ることが明らかになっており、本研究でさらにカルボン酸とアミンの含有量の類似性、 主要な有機物である不溶性有機物とアミノ酸の炭素同位体組成の一致を明らかにし たことは、ホルモース型反応が小惑星有機物を生成した主要な反応の一つであったこ とを示しています。

ホルモース型反応は、小惑星内部の水熱反応だけでなく、小惑星集積以前の微粒 子表面での光化学反応でも起こった可能性があり、低温環境でも炭素同位体組成に 差のない材料から13C 同位体を多く含むアミノ酸や糖などの低分子有機物が生成した 可能性があります。将来的に計画されつつある彗星からのサンプルリターンが実現す れば、その生成環境の特定が期待されます。 以上の成果は、今週、米国科学振興協会(AAAS)が発行する『Science Advances』 に出版されました。

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本研究は日本学術振興会科研費補助金(18H03728, 19K21888, 20H00185)と北海道大学低温科学研究所共同研究(20G049)の支援を受けて行いました。

*文中の13Cの13, 12Cの12は上付き文字として取り扱ってください。

【語句説明】
(注)ホルモース型反応
アルカリ溶液中でホルムアルデヒドから多種類の糖を合成する反応として1860年代に発見されたホルモース反応を主体とする反応。近年、隕石有機物の生成反応の一つとして、提案された反応。

【論文情報】
雑誌名:Science Advances
論文タイトル:Synthesis of 13C-enriched amino acids with 13C-depleted insoluble organic matter in a formose-type reaction in the early solar system
著者:Yoshihiro Furukawa, Yoshinari Iwasa, and Yoshito Chikaraishi
DOI番号: 10.1126/sciadv.abd3575

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